玉将 「さて、戦場は相矢倉と決まった。守備隊の金銀3枚は皆配置につき、私も無事入城した。後は諸君ら攻撃隊の出番だ。今更言うまでもないが、矢倉は難攻不落の堅城だ。1人も欠けることなく全軍が一致団結して当たらなければ成功はおぼつかない。そこでみんなに集まってもらってリーダーを決めたい。私が指名しても良いが、誰かなりたいヤツはいるか?」 飛車 「攻撃のリーダーといったら、最強の攻撃力を誇る我が輩以外ありえないでしょう。論議するまでもない。私を竜に変身させるべく、他の隊員は私のサポートだ。」 銀将 「何を言う。戦法=私の配置図ですよ。角換わりなんて棒銀・腰かけ銀・早繰り銀と私の配置がそのまま戦法名になっているではないか。矢倉だって棒銀とか加藤流3七銀とか、みな銀の名前がつくだろう。それに最強の駒とか言ったって、飛車はいつも自陣から出てこないで安全な場所で見守るだけでないか。戦場の最前線で戦っているのは常に私だ。あの羽生名人だって一番好きな駒は銀と答えているではないか。」 飛車 「おまえこそ何をいう。横歩取り8五飛を見ろ。あんな危ない位置で身体をはって攻めているではないか。銀ばさみにあって泣いても助けてやらんぞ。」 銀将 「竜になるなんて言っても、居飛車VS振り飛車ならともかく、相矢倉では竜になれっこないだろう。」 桂馬 「みなさん、現在戦法の革命は何か分かりますか。そう、ミーのことです。将棋で唯一飛び越せる駒、これほど攻撃に適した駒はありません。角と桂でいきなり穴熊を攻める藤井システム、両桂が乱舞する横歩取り8五飛、飛車先を保留して▲2五桂と攻める角換わり腰掛け銀、ミーをいかに戦場に送り出すか工夫したところから戦法は進化したのです。」 銀将 「なにをえらそうに。馬族の仲間なのに後ろに戻れないくせして。いつも戦場で孤立して、「桂馬の高飛び歩の餌食」なんて笑われているじゃないか。」 ※チェスのナイト、中国将棋の馬(マー)・朝鮮将棋の馬(マ)はいずれも後ろにも横にも行ける八方桂 角行 (どうせ飛車か銀になるだろうし、ここは発言はひかえておこう。) 香車 「あのーボクも立候補したいんですが。現代矢倉は端攻めがキモですよね。端攻めにはボクの存在が欠かせないと思うんですが。」 飛車 「我が輩の下位互換は黙れ。角筋を避けたら、後はスミでじっとしていろ。」 香車 「………」 玉将 「皆仲よくしなさい。団結しなければ破れないと言っただろう。では私が指名する。リーダーは…… 角行、おまえだ。」 飛車・銀将 「えーーなんで角が?」 玉将 「では説明してやろう。図を見てみなさい。」 「矢倉は引き角で使うが、この角の利きが敵陣まですーっと通っているだろう。この利きが攻撃地点なのだ。例えば1三を攻める代表的な戦法が…」 玉将 「こういうときだけ香車も元気がいいな。そう升田創案の偉大なる戦法、スズメ刺しだ。では2四を攻める代表例は…」 玉将 「そうだ。どちらの攻めも角の利きが欠かせない。つまり「角の利き」こそが矢倉の主役なのだよ。「銀ばさみ」を防ぐのも「桂の高飛び歩の餌食」から桂頭を守るのも角の仕事だ。だからどの場所を攻めるかで配置が違ってくる。例えば端を攻めるのに▲2五歩とついてもしょうがないだろう。▲2五桂が出来なくなるからな。だから最初に3五・2四・1三のどの地点を攻めるか決めて、それから攻撃陣を組み立てるのが矢倉のコツなのだ。」 角行 「分かりました。大役ですが頑張ります。私は色々弱いところもありますが、皆さんでサポートして頂いて、頑張って矢倉城を落としましょう。」 飛車「角がリーダーなのは認めよう。でも4六銀—3七桂ではどうやって攻略するんだ。相手も3筋は金銀4枚密集させて守っているぞ。」 玉将 「では今回のミッションを説明するが、その前に敵の防御策も知っておかないとな。攻めるのが角が主役なら守るのも角が主役だ。角を7三に引いているだろう? 6四だと後でいじめられるからだ。先手玉への角の利きをなくしてまでも攻撃陣を押さえるという強い意志がある。なので、すぐ▲4五桂と跳ねると△4五歩▲同銀△1九角成でまずい。そこで▲6五歩が「角が主役」の1手だ。これで6六のマス目を空けておけば、△1九角成に、▲4六角△同角▲同歩△5九角▲6六角と王手できる。」 「そして3五の地点で戦いがはじまるが、確かに3筋は敵守備隊が手厚く破れない。なので攻略ポイントはやはり「角の利き」である1三の地点だ。つまりこの作戦は3五で弾薬を調達し、それを1三へ投入し端から破るのだ。だから香車も大事な役割を担っている。いいな香車君。」 香車 「はい!分かりました。」 玉将 「ただな、場合によっては君を捨て石にするかもしれん。敵香を城から引き離すために。そのことは覚悟してくれ。」 香車 「……(どうせそんなこったろうと思った)」 玉将 「ではここで具体的に飛角銀桂香がどう動くか見てもらおう。平成15年の羽生—渡辺の王座戦第5局だ。」 http://hobby.nikkei.co.jp/shogi/oza/51_5.cfm ▲6四歩は敵角の利きを止める意味だ。どちらも角が主役なのがよく分かるだろう。△同角なら▲3五飛〜▲6五飛の飛車の横滑りがある。そして▲1三歩〜▲1二銀〜▲1七香打と、戦力を端に集中させて矢倉城を落とすことに成功した。(結果は逆転負け)ほら香車君、君が輝いているだろう。」 「教科書としては森内俊之九段の「矢倉の急所」が一番だ。プロも皆参考にしている。この本の発売日に将棋連盟の販売部に話を聞いたら「棋士の方々がみな買っていました。」そうだ。浅川書房のHPから注文できるので皆も買いなさい。」 https://www.asakawashobo.co.jp/products/list.php?category_id=22 「で、竜王戦第2局だ。」 http://live.shogi.or.jp/ryuou/kifu/ryuou20101026-27.html 「この将棋の△3七銀だって角の利きがあるからこその1手だ。さらに▲6四歩もそうだ。角を6四へ呼ぶことによって、後に▲6五銀と角をいじめる手を作っている。皆も森内先生の本で勉強し、この将棋を見てしっかりと攻め方を理解しておくように。」 飛角銀桂香 「はーい。分かりました。」
